これまでの主権者教育を整理してみた。

今年は、18歳選挙開幕イヤーということもあり、主権者教育に関する出前講座や講演などの問い合わせを、様々なところからいただいている。

こども・若者とよのなかをつなぎ、シティズンシップ(主権者意識)を育む活動を始めて6年が終わりかけているが、今年は本当に充実した活動をしていると実感している。

しかし中には、内容に少し戸惑いを覚えるようなこともある。

そこで、これまでの主権者教育の流れと今後の展望を、僕なりに整理をしてみたい。



18歳選挙+教育から見た主権者教育の4つのタイプ

まずはタイプを整理してみた。


横軸は対象=対象を絞り込んで教育を行うかどうか。

クローズは対象を絞る方法、オープンは対象を絞らない方法を表している。 

縦軸は目的=教育テーマをどのように設定するのか。

総合学習型は広くよのなか(社会)を学ぶ方法、課題学習型は特定の課題に対しテーマを設定する方法を表している。(今回は主権者教育がテーマなので、選挙教育をテーマとしている。)


選挙権が18歳に引き下がることが決まった。

この間、学校や行政が行ってきた主権者教育を考えると、ほとんどの主権者教育は、

・商店街や大学などでパレードや模擬投票所を実施するB

・もしくは、学校へ出向き、対象を絞った上で公職選挙法の話をしたりするD

に該当する。


B:啓発イベント型

「投票率の低い若者への啓発」ではなく、幅広く市民の方に選挙のことを知ってほしい。

ポスターやチラシの配布、有名人を呼んでのイベント、商店街でのパレードなど、従来から積極的に行われている啓発活動の形である。

この半年では、総務省と「未来の鍵を握る学校 SCHOOL OF LOCK!」が全国を回りシンポジウムを開催したり、それに伴い全国のFMラジオと総務省、地元の団体が一緒に各地でワークショップを実施した。

愛媛県では、7月3日に地元出身のモデルが大学に来てイベントを開催したりした。


D:出前講座型

選挙権が18歳に引き下がったことで、圧倒的に増えたのがDである。

例えば、高校や大学に出向いて模擬投票を体験する形がある。

行政(選挙管理委員会)や時にNPOが教育現場出向き、選挙に関するルールや投票の手順を体験的に学ぶ。

こういった時間を通して、選挙に対する意識や関心を高めるのが狙いである。

当然一概には言えないが、全国で積極的に選挙啓発を行っている学生団体など、若者による若者への選挙啓発も、多くがこのケースに当てはまるだろう。



主権者教育に「答え」はない。

ここで、本来の主権者教育に立ち返ってみたい。

シティズンシップ教育推進ネットでは、シティズンシップ教育が登場をした背景として以下のように説明をしている。


とくに、ニートといわれる若者の就業意識の低下、社会的無力感や、投票率の低下をはじめとする政治的無関心は、深刻な問題とされ、将来を担う世代に、社会的責任、法の遵守、地域やより広い社会と関わることを教えなければ、民主主義社会の未来はないとの危機感が広がってきたことも背景にあります。( http://www.citizenship.jp/citizenshipedu/ )


つまり、様々な社会問題を各個人がどのように考えるか、また、それを一市民としてどのように守っていくか、あるいは変えていくかを学ぶ場が本来のシティズンシップ教育であり、主権者教育である。


人権教育や金融教育など、現在の社会教育の種類は様々である。それだけたくさんの社会的課題を現在の日本は抱えている。そういった社会的課題を学ぶ教育を、ここでは課題学習型とする。

教育を提供する側からすると、課題学習型は非常に取り組みやすい。なぜなら、ある程度課題に対する「生徒それぞれの答え」が認められ、着地点を求めやすいからである。


一方で、個々の社会問題も、絡み合うと利害をめぐる対立が起こる。そういった社会的課題の利害を調整する働きが政治の役割である。様々な社会的課題をどのように判断し、よのなか(社会)に対する自分の考えを導き出し、よのなか(社会)の意思決定をする教育を、ここでは総合学習型とする。

教育を提供する側からすると、総合学習型は非常に厄介である。なぜなら、必ずしも「生徒それぞれの答え」が認められないケースがあるからである。


例えば、自転車問題を考えてみる。自転車問題をどのように解決するかという課題に対し、「駐輪場を作ろう!」という答えは、課題解決において非常にすばらしい答えである。

一方で、教育問題を考えてみる。教育レベルの向上のために、「大学まで授業料を無料にしよう」という答えを導くかもしれない。

しかし、課題解決のためにどちらも税金を使う。当然、どちらを優先して使うか、またそれによっては課題を解決するためには不十分な出来になる可能性もある。

つまり、1つの課題から見えた答えも、複数の課題が絡み合った瞬間、自分が描いた答えどおりにならなくなる可能性がある。これが複数人による議論だと尚更である。 


よのなか(社会)において話し合いや選挙によって決定する答えによっては、妥協が必要になってくる。そして、主権者としてはよのなか(社会)で決まったルールに対しては守る必要がある。(もちろん、必要に応じてルールを変えるのも、主権者の役割である。)


ある程度自分の答えが認められる課題学習型に対し、総合学習型には自分の答えが認められず、妥協をしなければいけない場合がある。総合学習型には答えがないのである。



どうして主権者教育が「選挙を学ぶ教育」になったのか。

2015年に、改正公職選挙法が可決され、高校生が選挙に参加できるようになったことから、複雑な公職選挙法を知り、高校生がトラブルに巻き込まれないようにするための教育が求められるようになった。

と同時に、


『少子高齢化時代という、史上例のない時代に突入するよのなかで、もっと若者が参加できる環境を作り、たくさんの責任ある一主権者と共により良い未来を創っていく。選挙はその手段の1つ。』


こういったメッセージがあったからこそ、18歳選挙と主権者教育がセットになり、Bだけでなくよりターゲットを絞ったDの啓発が広まったと考えることができる。


しかし結果的に、主権者教育のイメージとして選挙の要素が強くなりすぎたのは事実だ。そこにある種のねじれを感じている。



AやCは、もともと主権者教育を行ってきた人に多い。

一方で、もともと主権者教育を行ってきた人は、AもしくはCが多いというのが実感だ。

NEXT CONEXIONで実施をしている「civic-10歳からのよのなかレッスン」は、小学生から大学生、社会人の方まで広く募集をし、学びの場を作っているし、昨年度聖カタリナ女子高等学校で1年間実施をした主権者教育は、まちづくりから人権、経済・キャリア教育にいたるまで幅広くよのなかを知る中で自分の意見をつくり、育てることを心がけてきた。

また、総務省と文部科学省が作成し、全国の高校生に配布された『私たちが拓く日本の未来-有権者として求められる力を身につけるために-』は、選挙のことだけでなく、模擬議会や模擬請願など、内容的に幅が広い。

このワークは、様々な社会問題を議論する際に、雛形の1つとして活用することができる。

この作成協力者には知り合いもいるが、やはりAやCのタイプの取り組みをされている。



目指すべきは、課題学習型をプログラム化したA型

今後、より充実した主権者教育を行うためには、幅広くよのなか(社会)を知り、それに対する自分の考えを年代を超えて幅広い人たちとを育み、よのなか(社会)に参画する機会を設けることが大切である。 


そのためには、1つの課題だけでなく、年間を通して社会の課題を学べるプログラムを“つなぎ”、社会全体で主権者意識を育む学びの場を作ることが必要である(NEXTCONEXIONという法人の名前の由来は、ここから来ている)。


よりオープンな場で議論をすることが自分の考えを“シンカ”させることにつながる。

また、さらにシンカをさせようと思えば、同世代だけでなく様々な意見を反映させるため、学びの場に大人を入れることも良いインパクトを与えるだろう。


様々な大人が学びの場に入ることは、「政治的中立」を確保する上でもよりよい効果が見込める。

本来政治的中立とは、様々な意見が認められる意味であるべきである。

例えば、真っ白なキャンパスに、いろんな人が思い思いの色を塗り、完成する作品。

それの教育版というイメージをするとわかりやすい。 


現在、政治的中立のイメージは、真っ白なキャンパスそのままが作品というものである。

これは、「クローズな環境であればあるほど、先生の色に染められるのではないか」という不安から、当たり障りの無いものが一番いいという気持ちによるところが大きい。

こういった不安を払拭するためにも、例えば

・参観日に実施をする

・地域の方を授業に自由に参加していただく 

など、学校の授業をオープンにする方法を今後検討するのもありだと思う。



主権者教育は選挙のことを学ぶ教育という考えから、より広い視点に立って考えていくのは、学校や行政だけでなく、社会全体の様々な方の協力が必要である。

もしも今のまま進めば、せっかく来ている「若者の社会参画」のムーブメントがしおれてしまう可能性もある。

改めて主権者意識の本来の意味・目的を考え、進めていくことが大切である。



2017年からは、18歳成人の議論が始まる。

お酒やタバコ、結婚、契約など、選挙に比べるとより身近な話題がテーマとして挙がるので、これを期にもっとよのなか(社会)に興味を持つ機会が増える。

「自分達のより良い未来を創っていくのは、自分達自身である」ということを実感できる学びを、これからも作っていきたい。